夢の転生者 次期ダライ・ラマに選ばれた
じっとりと寝苦しい一夜に、夢を見た。
目の前にはチベットから来た男達がたくさんいる。
みな一様に正装しているところを見ると、なにかしら公式な使節団なのだろう。
その中の頭領と思われる男がひとり前に進み、重々しく僕に向かってこう言った。
「あなたが次期ダライ・ラマに選ばれました。これからチベットに来て準備して下さい。」
夢なので、どんなぶっとんだ状況もありなのだ。
ただ夢の中の僕はなぜだか、とうとう来るものが来たかというような重い気分でいた。
悩んでいるのだ。
自分がダライ・ラマの生まれ変わりになってしまったことはしかたがない。
ただ最近は中国に操られたチベット僧侶も多いと聞く。
もし一大決心をしてダライになったとしても、それが中国政府の傀儡として選ばれたのであれば浮かばれない。
以前訪れたチベットで出会った人たちは、笑顔が溢れる素朴な人々だった。
そんな人々を痛めつけるような存在には絶対になりたくない。
おかしな話だが真剣に考え込んでいた。苦悩は続く。
ダライ・ラマになってしまったら写真を続けられなくならないか。
ダライをしながら写真も許されるのか。そんな時間あるのか。
でも、ダライ・ラマが撮る写真って誰にも真似できない面白さなんじゃないか。
ぐずぐず考え込んでいる僕にしびれを切らして、使節団が僕を取り囲み無理矢理連れて行こうとする。
いやいやいや、ちょっとちょっとちょっと。
意味をなさない抵抗をした僕の目に、使節団の中に明らかに中国の軍人が混ざっているのが見える。
ああ、やっぱりか。操り人形か。
怒りと落胆が入り交じった気分になって目が覚めた。じっとりと汗をかいていた。
そもそもダライ・ラマ14世が存命中なのだから生まれ変わりが世に出ることはない。
夢とはいえその大前提に気づかずぐずぐず悩んでいた自分が阿呆らしい。
時刻は昼前になっていた。