9月
23

黒くて丸い空

posted on 9月 23rd 2010 in photographs with 0 Comments

5年ほど前から北関東のとある病院で写真を教えている。

実際は、「教えている」と言うほど大層なものではない。

5年前クラスを始めたときに下地だけ作り、あとは上手になった生徒が初めての生徒に教えるのを見に行っている、という状態に近い。

毎月一回、車で2時間ほどの田んぼに囲まれた街へ行く。

病院の専門は精神疾患系で、入院の必要のないいわゆる「デイケア」に通う人たちが僕の生徒だ。

 

軽度の精神疾患、とひとくくりにされることもあるが、この病院に通う理由や症状は人それぞれ千差万別だ。

僕はそういったことに特別詳しいわけではないので知ったようなことは書けないが、本当に病気なの?と思うような元気な人もいるし、端から見ても苦しそうにソファで横になっている人もいる。
過去の後悔をなぜか僕に向かって延々と話す人もいるし、話しかけてもまったく反応のない人もいたりそれは様々な人がいるが、なにかしら心に問題を抱えていて、社会生活に支障を来していることは共通している。

 

ひょんなことからここの職員の方と知り合い、トントン拍子に写真教室をすることが決まったのだが、そこで何をするか、はたと困った。
当初は各々フィルムカメラを家から持って来てもらい、撮影からプリントまで一連の作業を段階的に、繰り返しやろうと考えていた。

生徒たちに聞き込みしてみると、みんな家に古いコンパクトカメラぐらいはあるだろうというもくろみは見事に崩れ、うちにはカメラありません、という話が続出した。

 

療養のため仕事をしていない人がほとんどなので、新たに購入して下さい、というのは無理な話だった。

病院から出る予算も限られているし、継続的にフィルムや印画紙を個人が負担するというやり方はできなかったのだ。

そこで考えた。

生徒個人の負担がなく、病院からの予算だけで賄える激安な写真教室の形はなにか?
それでいて写真を撮る楽しさや、表現する喜びを充分に味わえる形は、なにか?

につづく)

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石川拓也 写真家 2016年8月より高知県土佐町に在住。土佐町のウェブサイト「とさちょうものがたり」編集長。https://tosacho.com/