黒くて丸い空 2
(1のつづき)
結論を言うと、ピンホールカメラという答えに辿り着いた。
これなら空き箱があれば作れてしまう。カメラ本体の費用は実質タダだ。
クラスの初っぱなは、家から空き箱を持って来てもらうことから始めた。
カメラはないんです、と言ってた生徒たちも、お菓子やクツやシーツが入っていた箱を持って来てそれぞれ集まった。
レンズの部分は、空き缶のアルミを四角く切り取ったものを使った。光が乱反射しないように黒く塗って、縫い針の先端で小さな穴をあける。
ついでに箱の内部も黒く塗って、穴を開けた箱にレンズの空き缶を貼り合わせて、カメラの出来上がり。
フィルムを使うと高くつくので、印画紙で撮影してしまおう。
ミーティングルームに暗幕を張ってもらい、即席の暗室にした上で、カメラの底に直接印画紙を入れていく。これなら現像液もフィルム用のものは買わなくて済む。
印画紙と紙用の現像液ぐらいなら病院の予算でもすべてカバーできるだろう。
暗室でおなじみのオレンジ色の光の中で、生徒たちに印画紙を配る。
紙のサイズは8x10インチという1種類。箱のサイズはそれぞれまちまちなので、小さい箱で作ったひとはハサミで紙を切らないといけない。
ふと見ると、紙の端から3ミリぐらいのところをおそるおそる切っている人がいる。
その人が作ったカメラは手のひらサイズだ。
紙が箱に入るようになるまでには何度も繰り返し3ミリずつ切っていくことになるのだろう。ここをこう切って、とは敢えて言わずに、これはこれで良し、と眺めたりしている。
印画紙を詰めたカメラを持って、ぞろぞろと外に行く。歩いて行ける距離で撮影することもあるし、職員に車を出してもらって少し遠出することもある。
各々がバラバラに好きな風景にカメラを向けて、レンズの蓋として貼付けた厚紙をはがすと、露光が始まる。ピンホールカメラは穴の直径と箱の深さで適正な露出時間が決まるので、それぞれの箱でどのくらいの時間、シャッターを開ければ良いのかはなんとも言い難い。
だいたい1分、とか勘で30秒ぐらいかな、とか我ながら大ざっぱな教え方をしている。
生徒たちも、じゃあ今回わたしは1分で、と宣言するにも関わらず、実際撮影しているのを見ていたら時計をまったく見ていない。
小さな声でいーち、にーなんて数えてて、途中でどこまで数えたっけ?なんて言っているのでどっちもどっちなのだろう。
そうやって撮影したものを手にして、現像するためにまた暗室に戻る。
(つづく)