5月
10

セブン・イヤーズ・イン・下町

posted on 5月 10th 2010 in 毒にも薬にもならない with 1 Comments

もう長いこと東京の隅っこの下町に住んでいる。

 

下町というのは地域のことではなく、正確にはコミュニティを指す言葉だ、ということが、長く住めば住むほど身にしみてわかって来る。

斜め向かいのおばさんが、ちゃきちゃきの気っ風の良さで、田舎から野菜が届いたから持っていきな、とじゃがいもなんかを持ちきれないほど手渡してくれる。

二軒となりのおじさんは、僕が庭木の剪定で慣れない汗をかいていると、おれこういうの大好きなんだよ、とノコギリ片手に参戦してくる。にいちゃん、この枝も切っちゃってかまわないかい?

正面向かいのじいさんには、僕が何も告げずに1週間ほど旅に出た後、そこそこ激しく怒られた。いねえから独りで死んじまってんのかと思ったぞ、ひと言いってから留守にしろ。

数え上げたらきりがないが、僕が向こう三軒両隣の大人たちからもらった分の、お返しをできてないのは確実だ。

今日も考え事をしながら近所を歩いていて、隣のじじいに怒鳴られた。にいちゃん、ぼーっとしてっと車にひかれて死んじまうぞ。

いつかは僕もそんなうるさいじじいになるんだろうか、と考える。

全く悪い気はしない。

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石川拓也 写真家 2016年8月より高知県土佐町に在住。土佐町のウェブサイト「とさちょうものがたり」編集長。https://tosacho.com/

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  • 昨日までの家 | Words x Messages

    commented on 2011-10-04 at 10:07

    […] 全てを終えて帰り際、向かいの家のオヤジが表に出てきてひと言、 「もう会うこともねえやな」。 おいおい、あんたは下町のガンコオヤジでしょう、そんなに目を潤ませてこっちを見 […]