エリトリアで借金を 6
(エリトリアで借金を 5 つづき)
バスで乗り合わせた人々が口を揃えて言うことには、戦争中、マサオアは最も激しい戦闘を経験した町だという。
マサオアの町に入って見れば、なるほど戦火に焼かれた場所とはこういうことか。一目で納得がいくほどに、町は荒廃というひと言に尽きる。無事な建物のほうが珍しい。多くは壁や天井に大きな穴が空いていて、真っ黒こげになっていた。この国が戦争に勝利して、独立を宣言したのが93年ということなので、それから2年は経っているのだが、戦争の傷跡はそれでもいたるところに転がっていた。
バスは町の中心で客を降ろし、僕は教えられた道を港湾事務所に駆けて行った。僕が取ったルートが正しかったかどうか、僕の賭けが勝つのか負けるのか、答えは1キロほど先の港にある。焦れる気持ちをバックパックの重さにブレーキをかけられながら、汗だくになって、あそこだよ、と指された建物のドアを開ける。
勢い良く飛び込んできたアジア人に、事務所の人たちは初め少し驚いたようだったが、船は出てるか?と聞いた僕に、さらに驚いたようだった。
きちんとした答えが返って来ないので、もう一度、エジプト行きの船はここから出てるか?と聞いてみる。一瞬の沈黙の後、返ってきた言葉は「ノー」だった。
思わず目の前が暗くなったが、出てないの?ホントに出てないの?としつこく聞く僕を、そこのボスらしき男が、落ち着きなさい、と手で制した。どうやら僕は必死になりすぎて、彼らが話す隙も与えず質問攻めにしていたようだ。
すこし気持ちを落ち着かせてボスの言うことを聞いてみると、確かにエジプト行きの船はここにはない、という。ここからは、対岸であるサウジアラビアのジッダという港に行く便しかない。エジプトに行きたければそこで船を乗り換えなさい。呆れた顔も見せずにボスはていねいに教えてくれた。
そういうことなら、もちろん行くしかない。考えている時間はないのだ。ジッダまでの便は30ドルぐらいらしい。財布を見ると、80ドル残ってる。ジッダからスエズの船はいくらぐらいか聞いてみたが、ここではわからない、それはジッダで聞きなさい、という。
わかった、行こう。船のチケットが30ドル。そうすると残り50ドル。直行便はなかったが、ジッダからスエズまでの便が30ドルとか40ドルならまだ行ける。まだ勝てる。
船が出るのはちょうど明日だ。それを逃すと次の便は1週間後。よし、買おう、と言った僕に、ボスが相変わらず落ち着きはらった声で聞いた。
サウジアラビアのビザは持ってるか?
(7につづく)