エリトリアで借金を 7
(エリトリアで借金を 6 つづき)
完全に固まってしまった僕に、ボスの言葉が追い討ちをかけた。
エジプトのビザも持ってるか?
しまった。船のことばかりに執着しすぎて、大きなミスをしでかした。サウジアラビアに行くつもりは全くなかったので、ビザを持っていないのは仕方のない話だが、エジプト行きの船を探しにきたのに、エジプトのビザを持っていない。
僕の無計画なだらしなさは、目の前のことしか見えなくなるのが原因だ、と普段から思っていたのだが、実は目の前のことも見えてはいなかった。自業自得の悲しさで、誰のせいにするわけにもいかず、悔しさだけが募ってくる。答えはわかりきっていたのだが、それでも一応、ビザがないとダメなのか?と聞いてみる。ホントはビザがなくても行けるでしょう?と。
それまで落ち着き払っていたボスは、僕の国際ルールを無視した質問に、よっぽど不意をつかれたのだろう。初めてわかりやすい狼狽を見せ、いやいやそれは決まりだからと、なんとなく目の前のアジア人を哀れんだ目で見た。
考えがまとまらないまま、うわのそらでボスにお礼を言って、外に出た。目の前はエメラルドグリーンのとんでもなく美しい海だ。そんな一生に一度出会えるかどうかという景色を前にして、残念なことに僕の気持ちは重かった。
さあどうする?このままエジプトに行くのはムリだ。船もないしビザもない。密航?吉田松陰じゃあるまいし。賭けには負けた。負けたが、僕はまだ生きている。とにかく前進しなくては。
もうこの時点で、すべきことはわかっていた。アスマラに戻り、サウジとエジプトのビザを取る。ビザがいくらか知らないが、それでお金はほぼなくなるだろう。船のチケットは買えなくなるから、お金をどうにかしなければならない。マサオアに再び戻り、船に乗りジッダへ。ジッダで船を乗り換えて、スエズ。スエズに着けば、イスラエルはもう目と鼻の先だ。
そうする以外にないことは、回転してない僕の頭にも明らかだが、お金をどうにかする、という部分が最も肝心で、その肝心の部分がまったくの霧の中、どうするべきかわからない。
とにかく、一刻も早くアスマラに帰らなければ。
町の中心に戻ると来たときのバスがまだ停まっていた。気の良い運転手に不思議な顔をされながらも、そのままバスに乗り込んで、まったく同じ道のりを、今度は山を登って行く。
(8につづく)
A:Asmera B:Massawa