エリトリアで借金を 8
(エリトリアで借金を 7 つづき)
その日のうちに、来た道をそのまま戻りアスマラに帰って来た。
ハジスの家にもう一度、と思ってみたのだが、ハジスの家がどこだかわからない。ものごとうまくいかないときは全てがうまくいかないもので、ハジスが、手紙をくれ、と言って僕に手渡した住所を確認すると、P.O BOX、いわゆる郵便局の私書箱あてになっていた。
しかたないのでハジスの家に戻るのはあきらめて、最も安いと思われる宿を取る。食事はもちろんオレンジのみだ。
なにを差し置いても、まずビザを取りに行かないとならない。アスマラに戻った翌日、まずはエジプト領事館を訪れる。確かビザは14ドルとかで、ちょっとほっとしたのを憶えている。一日待って、その次はサウジのビザだ。以前から、サウジアラビアはイスラム教徒以外のビザには厳しい、と聞いていた通り、トランジットのビザしか出せないという。やはり一日待ち、痛い40ドルほどを払ってビザを受け取る。有効期限は入国後36時間。
さあ、これでビザは整った。これで十分な資金が手元にあれば、マサオアに向け再出発、ということになるのだろうが、悲しいことに手元には20ドルぐらいしか残っていない。マサオア発の船にも乗れないのだ。
とにかく、お金をどうにかしなければ。焦ってばかりの頭をむりやり整理して、どうすれば良いか考えてみる。
日本の家族に送金を頼む。これはダメだ。できたばかりの国で、送金が何日かかるかわからない。無事に届くかどうかさえ危ういし、国際電話をかけた時点で僕が数日生き延びるためのわずかなお金さえなくなってしまう。
大使館に頼る。これもダメ。エリトリアに日本大使館がない。エチオピアにはあるのだが、そこまで行くお金もない。第一、大使館がお金を貸してくれるのかどうか。
働く。例えばここで100ドル貯めるのに、一体どのくらいの時間がかかるのか。こつこつやっているうちにエリトリアのビザさえ切れてしまうだろう。
もう、こうなったら考えててもしかたない。僕は街に出て、数少ないヨーロッパからの観光客に声をかけ始めた。
どこから来たんですか?ああ、ドイツ?ぼくもこの後ドイツに行こうと思っていますよ。それで相談なんですが、お金貸してもらえませんか?ドイツに行ったときに返しますので、、、。
これでイエスと言ってくれる人がいれば、それは天使のような人物なのだろう。
(9につづく)