エリトリアで借金を 10
(エリトリアで借金を 9 つづき)
翌朝、日の出とともに目が覚める。
この時期のアスマラは毎日雲ひとつない快晴だ。オレンジをひとつだけ食べ、良いアイデアも浮かばないまま街に出る。
こうなったら数打ちゃ当たるかも、とまたしてもヨーロッパからの観光客に手当り次第に声をかけてみる。当然だがけんもほろろ、芳しい答えは得られない。もしかしたら、とエリトリア人にも声をかけてみる。お金貸してくれたら、僕ヨーロッパに一度行って、お金引き出してまた戻ってきますから、と。急ぎ足の旅でエチオピアもエリトリアもろくろく観ていないので、お金持ってまた来るのも良いかな、なんてのんきなことをこのときは本気で考えていた。
何連敗したのだろうか、いつの間にか太陽が西に傾き始めたころ、あるスイス人のカップルに声をかけた。
やはり当然のことながら、僕たちは貸せないな、と断られてしまったのだけれど、去り際に、そういえばさっき日本人らしいツアー客を見かけたよ、と気になるひと言を残して行った。
日本人のツアー客?独立したばかりのこの国で?
半信半疑、もしかしたら韓国の建設会社の人たちのことなのかも、なんて思いながらも、この状況でのそのひと言は僕にとっては天から垂れて来たクモの糸、あたってみるしかない、と大急ぎでツアー客が泊まっていそうな大きめのホテルに飛び込んだ。
ホテルの受付係は優しそうなおじさんだった。ここに日本人のツアー泊まってる?と鼻息荒く飛び込んできた僕の勢いに不穏なものを感じたのか、泊まってません、と妙にオドオドしながらおじさんは答えた。
ここではないのだ。でもアスマラでツアー客が泊まれるような大きなホテルはそれほど多くはないはずだ。
電話帳貸して下さい、そうお願いした僕に、おじさんは変わらずオドオドしながらも即座に分厚い電話帳を持って来てくれた。ホテルの欄を開き、おじさんに、大きなホテルはどれですか、と訊ねる。
おじさんが指した電話番号を、片っ端からかけてみる。電話一回の料金がそのままオレンジ4個分だ。縮まるタイムリミットを頭の隅で気にしながらも、一軒目、二軒目、三軒目とかけ続ける。どこも、ここにはいないよ、という返事だった。財布が空になるまで電話してやれ、と人ごとのような、やけっぱちのような気持ちで回転式のダイアルを回す。
七軒目にかけたとき、受話器の向こうの人がちょっと陽気な感じで、ああ、うちに泊まっているよ、と言った。
(つづく)