7月
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エリトリアで借金を 11

posted on 7月 5th 2010 in 1995 with 0 Comments

エリトリアで借金を 10 つづき)

即座に電話を切り、そのホテルまでの行き方をおじさんに教えてもらう。

おじさんは僕の状況が飲み込めたのか、もうオドオドするのをやめ、むしろ張り切って詳しい地図まで描いてくれた。

地図の通りに40分ほど歩く。教えられた上り坂の向こうに、4階建ての瀟洒な白いホテルが見える。門まで近付いて行ってよくよく見てみると、その2階の窓から、確かに日本人らしき女性が顔を出して外を眺めている。

躊躇なく声をかける。こんにちは、日本の方ですか?ああ、やっぱりそうですか。あの、お金貸してもらえませんか?

またしても狂人扱いされても仕方のない状況だ。気の毒な女性は驚いた顔を見せながらそれでも、ロビーで待っていて下さい、と2階から降りて来てくれた。

一体、どうしたんですか?と聞く女性に、恥ずかしながらもざっと事のあらましを説明した。少し無言で考えたあと、私ではどうにもできないからツアコンのひとを呼んできます、と言い残し、女性は2階へ戻って行った。

それからしばらくロビーには誰も現れない。壁にかけられた時計の音がとても大きく聴こえる。登りかけたクモの糸がちぎれそうになっているのを感じる。この糸がちぎれて落ちる底は、やはりカンダタ同様、地獄なのか。お釈迦様はそれをご覧になられて悲しげな顔をされるのか。

不安ばかりが大きくなる。やはり頭のおかしい人と思われて、完全に引かれてしまったのだろうか。今頃ツアコンの人に、変な日本人にからまれちゃって困ってます、なんて助けを求めに行っているのではないのだろうか。

悶々と苛まれること15分、ロビーで小さくなっていた僕に、どうしたんですか?と日本語の声がした。

顔を上げると、30代前半らしき日本人の男の人が立っている。僕がツアコンの者ですが、そういってその人は目の前のソファにふわりと座った。

僕はここに来るまでの道のりと、自分の置かれた状況をその人に話し始めた。

12につづく)

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石川拓也 写真家 2016年8月より高知県土佐町に在住。土佐町のウェブサイト「とさちょうものがたり」編集長。https://tosacho.com/