7月
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エリトリアで借金を 12

posted on 7月 13th 2010 in 1995 with 0 Comments

エリトリアで借金を 11 つづき)

15分も話し続けただろうか。その間、その人は僕の話を静かに聞き続けてくれた。

そして僕がすべてを話し終えたとき、その人は考える素振りも見せず、いいよ、いくら必要なの?と即座に答えてくれた。

あまりにも簡単にそう言ってくれたので、今度は僕のほうが驚いて、えええ?本当にいいんですか?と聞き返してしまった。

その人は静かに頷いてこう言った。僕も若い頃には今の君のように旅をして、年上の人にたくさん世話になった。だから僕は今、君にお金を貸そう。そして君は今後困っている人に出会ったら、このことを思い出して助けてあげなさい。

で、いくら必要なの?ともういちど聞かれた僕はちょっと迷い、100ドルあればイスラエルまで行けると思うんです、とさらに小さくなって言う。たぶん、大丈夫です、と言った僕の自信のなさを感じとったのだろうか、その人は、じゃあ念のため、と言い100ドル札を2枚手渡してくれた。

そのとき僕は二十歳を過ぎたぐらいだったが、後にも先にもこのときほど紙幣を重く感じたことはない。

掌の2枚を握りしめて、その人の名刺を受け取った。名刺には秘境を専門にツアーを組む旅行会社の名前があった。半年ぐらいしたら帰国して必ず返しに行きます、その人に頭を下げた。

いいよいつでも、それより気をつけて行きなさい、とその人は近所を散歩するような気軽な感じで僕を門まで見送ってくれた。心の中でもういちど、必ず返しに行きます、と繰り返し、ホテルを後にした。

クモの糸はちぎれなかった。これでまた前に進める。そのまま宿に戻り、荷物をまとめる。明日の朝、マサオアに行こう。港のボスは明後日には船が出ると言っていた。いまならギリギリ間に合うはずだ。

13につづく)

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石川拓也 写真家 2016年8月より高知県土佐町に在住。土佐町のウェブサイト「とさちょうものがたり」編集長。https://tosacho.com/