エリトリアで借金を 14
(エリトリアで借金を 13 つづき)
サウジはビザに厳しかったが、入国審査もきびしかった。
なぜだか理由はいまだに不明だが、審査の列で僕の前に並んでいたおじさんが、脇に大きなマクラを抱えていた。長い船旅ではマクラは必需品、なのかもしれないが、かわいらしいことこのうえない。イミグレーションの係官はそれに目をつけて、まずは中に何も隠していないか、パンパン叩いていたのだが、あげくの果てにはナイフを持ち出し、真ん中から大きく切り裂いてしまった。羽毛を外に飛び散らかしながら中に手を突っ込み、当たり前だがそこには羽毛しかないことを確認し、はいオッケー、とおじさんに返す。受け取ったおじさんも僕も目が点になっていた。
36時間の期限付きで、ジッダに入る。まずはエジプト行きの船のチケットを買いに行く。船の出発が3日後、なんて言われたらまたビザの問題が出てくるし、200ドル、なんて値段だったらまたしてもお金が足りなくなる。まだまだ気は抜けないのだ。
港の近くの事務所で聞いてみるとスエズまで80ドル、幸いなことに今夜出発するという。チケットを買い、ジッダの街をぶらぶらしたあと港に戻り、船に乗り込む。ここまで来れば焦ってばかりいた僕の心にもだいぶ余裕が生まれて来て、これならカイロによってピラミッドだけでも見て行こうかと、調子の良いことを考え始める。
二泊三日かかってスエズへ到着。やはりどうしても、とカイロに行くことにする。ピラミッドを堪能し、そろそろヤバい、とイスラエルのテルアビブ行きの長距離バスに乗る。バスは夜を徹して走り続け、翌日の昼頃にはテルアビブのターミナルで乗客を降ろした。
初めて触れるイスラエルの空気を吸いながら、財布の中を見る。カイロによっていたせいで、またしても10ドルぐらいになっている。でも、大丈夫。シティ・バンクの人は世界中にATMがありますよ、って言っていたのだし。
そのまま近くにATMを探し、カードを突っ込む。ザッと機械の音がして、初めて目にするシュケルの札が数枚、取出し口から現れる。教えられた安宿に歩いて行き、荷物を下ろし、近くの酒屋にビールを買いにいく。1ケース買って宿に戻り、カウンターにドスンと載せる。一本だけ取出して、あとは勝手に飲んでよ、と受付のおにいさんに渡す。
貧乏旅行者が集まる安宿で、それは珍しい光景だったのだろう。ロビーにいた客たちが、おれもおれもと、またたく間に12本のビールは売り切れた。
受付のおにいさんは自分でも一本開けながら、なんか良いことでもあったのか?とそのわけを知りたがっていた。いや、深い理由はないけれど、と答えたものの、ビールを持った人たちが一斉に、チアーズ!とうれしそうに言ったとき、ひとつだけ心の中でつけ足した。
エリトリアに。
(おわり)
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