4月
04
ラサに行ってもいいですか? | 偽装中国人バスの旅 14
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その夜、輪郭がなにもかも暗くぼやけたようなゴルムドの街。どこをどう歩いたのか皆目見当もつかないような路地の奥。橙色の裸電球がぼんやりと照らす露天の古着屋に、ネズミ男は僕を連れて行った。
ひとかけらの迷いも見せずに「これを買え」とあいつが選んだものは、あちこちシミの付いてすり切れた中国人民軍のカーキ色のコートだった。300円也の古着を言われた通りに買いそのまま着てみると、その外見とは裏腹に、造りはとても頑丈で分厚いものとわかった。「軍用品だ」と実感したが、コート全体から発するかび臭さには閉口した。
さらに「これも買え」とネズミ男は帽子をひとつ差し出す。額の部分に赤い星のついた緑色の人民帽。ドラゴンボールのウーロンみたいだな、そう思いながら買った帽子をコートのポケットに押し込める。
そしてもう一軒。さらに路地の奥まった場所にある雑貨屋に行き、巨大なズタ袋を買えと言う。
「お前の鞄がダメだ。あの青い鞄をこの袋の中に入れろ」
声を低く落とし、油断無く周りに目を走らせながらネズミ男が言う。
「中国人に偽装しろ」と。
「翌朝6時に迎えに行く」と小声で言ってネズミ男は路地に消えて行った。僕は帰り道に迷い、宿を探し出すまで2時間歩いた。
(つづく)