5月
10
セブン・イヤーズ・イン・下町
もう長いこと東京の隅っこの下町に住んでいる。
下町というのは地域のことではなく、正確にはコミュニティを指す言葉だ、ということが、長く住めば住むほど身にしみてわかって来る。
斜め向かいのおばさんが、ちゃきちゃきの気っ風の良さで、田舎から野菜が届いたから持っていきな、とじゃがいもなんかを持ちきれないほど手渡してくれる。
二軒となりのおじさんは、僕が庭木の剪定で慣れない汗をかいていると、おれこういうの大好きなんだよ、とノコギリ片手に参戦してくる。にいちゃん、この枝も切っちゃってかまわないかい?
正面向かいのじいさんには、僕が何も告げずに1週間ほど旅に出た後、そこそこ激しく怒られた。いねえから独りで死んじまってんのかと思ったぞ、ひと言いってから留守にしろ。
数え上げたらきりがないが、僕が向こう三軒両隣の大人たちからもらった分の、お返しをできてないのは確実だ。
今日も考え事をしながら近所を歩いていて、隣のじじいに怒鳴られた。にいちゃん、ぼーっとしてっと車にひかれて死んじまうぞ。
いつかは僕もそんなうるさいじじいになるんだろうか、と考える。
全く悪い気はしない。
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