谷村美月 x AGRIZM
ひさしぶりに女優の谷村美月を撮影した。
彼女を初めて撮影したのは確か06年の初春で、行定勲監督の「ユビサキから世界を」という映画の撮影にスタッフとして参加したときだった。
ロケ地は山形だった。
出発前の東京は汗ばむほどに暖かくなっていたので、まったく何も考えずそのままの身なりでロケに参加したのが大失敗で、初日で粉雪がちらつくほどの凍てつきようの中、骨の芯まで冷え込みながら撮影したのを覚えている。
大体、映画の撮影というのはどういうわけだか徹夜の連続というのが相場になっている。
それが映画の現場は初体験だった僕は、徹夜に対する心の準備と寒さに対する衣服の準備を二重に失敗してしまって、4、5日が過ぎる頃にはもう音をあげる寸前まで追い込まれていた。
休む間もない過酷な現場で、それでもヘコタレていられない、と思わせてくれたのが主演の谷村美月が演技する姿だった。
ストーリー上の設定のため、水をかけられても、泥だらけにされても、あげくの果てには真夜中から夜明けまで顔だけ出して地中に埋められても、文句一つ言わない事はもちろん、キラキラとした演技を淡々と続けていた姿を見てしまっては、水も泥もかけられてなく埋められてもいない僕が音を上げるわけにはいかなくなってしまったのだ。
今回はAGRIZM(アグリズム)という農業系雑誌のグラビア撮影をした。
奥多摩の農家の古民家や田畑をお借りしてのロケになった。農業系の雑誌なのでグラビアも「農」から離れることはないのだ。
レンズを通して数年ぶりに谷村美月を見て、どことなく大人びてきたと思う。それはそうだ。「ユビサキから世界を」のときが彼女は16才で、いまはもう20才になった。その年頃の4年間というのは少女が大人の女性になるには十分な時間だろう。
そうして撮った写真に編集者がつけたタイトルは「登熟期」だった。