3月
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ラサに行ってもいいですか? | 偽装中国人バスの旅 6

posted on 3月 25th 2014 in 1995 with 24 Comments

この話は以下のリンクにまとめています
ラサに行ってもいいですか? | 偽装中国人バスの旅 [前編]

 

 

 

ラサに行ってもいいですか? | 偽装中国人バスの旅 [後編]

 

lhasa2

6

うとうとと眠くなる。

出発してからこのかたきっちり眠れていないので、昼間にも睡魔がやってくる。高度のせいで徐々に酸素が薄くなってきているのだろうか。

少し、頭が痛い。

窓の外にはヤクの群れが緩慢な動きで草を食んでいる。

チベット帽をかぶった少年が数人、投げ縄の練習をしているのが遠目に見えた。乾いて、厳しく、圧倒的な大自然。

その表面に、小さな点のようにへばりついている人間の暮らし。

それが窓から徐々に見えてくるチベットだった。

 

突然、肩を小突かれて我に返った。

揺れるバスの中、隣席の男が中国語で話しかけていた。何を言っているのか理解できないが、この様子だとおそらく何度か話しかけ、僕に反応がないことに少々いら立っているようだった。

僕は男と目を合わせたが、すぐに視線を窓の外に戻し完全に男を無視した。男が発した言葉は虚しく宙を漂っていた。

さぞかし不愉快な気分にしてしまっただろうと想像したが、相手はそれほど気にするふうでもなく、ちょっとだけ肩をすくめ、足下に置いた自分のカバンをゴソゴソと漁り始めた。

出発してからずっとこうだ。もちろん無視したいわけではない。

僕の方こそ、周りの乗客に話しかけ、或いは筆談で、現在地はどこなのか?ラサまであとどのくらいなのか?検問はあといくつあるのか?訊きたいことは山ほどあるのだ。

 

だが今の僕は、そのうちのひとつも尋ねることはできなかった。

それどころか、中国語が「わからない」ことを周囲に悟られてはならなかった。つまりひとことも言葉を発してはいけなかった。

それがネズミ男のルールだったからだ。

 (つづく)

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石川拓也 写真家 2016年8月より高知県土佐町に在住。土佐町のウェブサイト「とさちょうものがたり」編集長。https://tosacho.com/

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