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ラサに行ってもいいですか? | 偽装中国人バスの旅 7

posted on 3月 27th 2014 in 旅の記憶 with 19 Comments

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僕はコートのポケットから薄っぺらい雑誌を取り出し、ページに目を落とした。

内容まで薄そうな、中国語の芸能誌。

全く読めないその雑誌を、僕はずっと読むフリを続けていた。その雑誌は周囲から僕を守る盾だった。読むフリをすることで僕は周囲にひとつのサインを送っていた。

僕は中国語はわかる、でも誰も話しかけるなよ、というサインだ。

 

その雑誌はこのバスに乗り込む直前、ネズミ男が僕に手渡したものだった。

「席に着いたらこれを読むフリをしていろ。周りの乗客とはひと言も話すな。運転手とも話すな。いいな。」ネズミ男の意図を要約すると、そういうことになる。

そして僕はその掟を忠実な下僕のように頑に守っている。

あと何日かかるかもわからないこのバスで、無言の行を貫き通すのはなかなか骨が折れる。しかし僕にはそのバカげた掟を守り通さなければいけない理由があった。

「守らなければラサには到着できない」

ネズミ男にそう告げられていたのだ。

 (つづく)

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石川拓也 写真家 2016年8月より高知県土佐町に在住。土佐町のウェブサイト「とさちょうものがたり」編集長。https://tosacho.com/

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