3月
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ラサに行ってもいいですか? | 偽装中国人バスの旅 8

posted on 3月 28th 2014 in 1995 with 20 Comments

lhasa5

8

自業自得。

そんな四字熟語が頭の中をふわふわ漂っていた。

その言葉をあえて向こうへ押しやって、僕はネズミ男とこのおんぼろバスとこの状況に心の中で文句を繰り返していた。

 

食事も満足にできないし、運転手にも他の乗客にも話しかけることすらできやしない。眠れないから、起きてるのか寝てるのかわからないぐらいヘトヘトだし、暖房が効きすぎて汗でベトベトで気持ち悪い。なのにこの分厚いコートを脱ぐことすらできない。なによりもこのまま進んでラサに到着できる保証もない。

なんだってこんな旅になってしまったんだ?

 

そしてそんな恨めしい考えがぐるぐると廻った末に、必ずたどり着く着地点。結局僕は、自分で選んでここにいる。

行けるとこまで行くしかないんだろう。

 

2日目の夕陽が白い山脈の向こうに沈む。

何度かチベット人の村を通り過ぎた。

窓から差し込む太陽光は一日中ジリジリと肌を焼き、影のような黒い疲労を僕に残した。

樹木が全く生えていない、月の表面のような山肌を、バスはずっと走り続けている。道もない山で、頼りは車の轍が示す道しるべ。

運転手は2人で交代しながら進んでいるので、バスは食事休憩以外は停車することもない。

 

バスが崖の上の細い道を走る。

車一台分の幅しかない道で、対向車が来たら一体どうするのか不思議に思う僕。もちろんそんなことはおかまいなしに進むバス。

ふと崖のはるか底を見ると、裏返しになった白いマイクロバスが目に入った。ここから見える車体の側面は傷だらけで、それはマイクロバスがこの崖を転がり落ちたことを示している。

白い車は夕陽に染まって橙色のように見えた。

 

それは大きな幸運ゆえか、それともある種の采配でも存在するのか、バスは相当なスピードを出しながらも、一台の対向車に遭うこともなく、そして崖底に転がり落ちるわけでもなく崖を走りきり、平野の入り口に差し掛かっていた。

 

視界のすべてが暗闇に呑み込まれようとしていたちょうどその時、バスが徐々に速度を落としはじめた。

ふと顔を上げ、フロントガラスの向こうを見ると、点のような白い光がぐるぐると回っている。誰かが前方で、停まれ、と合図を送っていた。

 (つづく)

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石川拓也 写真家 2016年8月より高知県土佐町に在住。土佐町のウェブサイト「とさちょうものがたり」編集長。https://tosacho.com/

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