神さまがくれた花 1
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この広い世の中には、まれに「神さま」と呼ばれるものがいるらしい。
空の上にとか心の中にとかそういうあいまいな話ではない。出会える神さま。生き神。リビング・ゴッド。これはそういう生身の「神さま」に僕が出会った話。
インド・グジャラート州アーメダバード。僕はある友人の勧めで2009年に初めてここを訪れた。そして現地で知り合ったある家族と仲良くなり、以来年に数回、僕はここに住むそのインド人家族を訪れる。
バーラット・ラオというその家族の長、いわゆるお父さんは、正確に言うとアーメダバードから車で1時間半くらいのカロールという名の田舎町に住んでいる。
大学を経営していたり不動産のデベロッパーをしていたり、ちょっとした町の名士らしい。
僕は毎回インド行きが決まるとアーメダバードまで飛行機で飛び、空港までバーラットに迎えに来てもらってから一緒にカロールに移動、というのが恒例になっていた。
そのときもそう。
肌寒い真冬の日本を離れ、汗ばむくらいの陽気のアーメダバードに降り立った。探すまでもなくバーラットは空港のガラス越しに僕を見つけてくれて、日本から持ってきた荷物を車に載せてすぐにカロールへ。
バーラットの家に着くと、いつもの家族以外にも、そこにはバーラットの親戚の見慣れた顔があった。
みんなが「ダダ」と呼んでいるおじいちゃんとその娘婿のジャグネシュ。
この2人はアメリカ南部(ジョージア)に長年住んでいて、冬になるとインドに戻ってくる。
少し説明するとこれはインドではけっこう普通のこと。
インド人は昔から、移住や留学や出稼ぎのために国外に出る人間がとても多い。
特にイギリスやアメリカ、南アフリカなんかの英語圏にガンガン出て行く。ホワイトカラー・ブルーカラー関わらずガンガン出て行く。
かのガンディーも若い頃ロンドンに留学し、弁護士として南アフリカで働いた時期もある。インド人にとって、英語が通じる外国は非常に近い存在として、すぐ側にあるのだ。
だからそういった諸外国のあちこちに親戚がいるって言うインド人は本当に多い。そしてそういった移住組の中でも生活が落ち着いて余裕のある人は、冬になると暖かいインドに里帰りしてくる。
里帰り中は近しい親戚の家に宿泊することになる。
それで部屋数に余裕がある家にはこういった親戚が集まりやすく、冬には常時2,3家族が数ヶ月単位で泊まっている。
そういう状態のところにさらに僕みたいな親戚でも何でもない外国人が泊まらせてもらっていたりする。
12月から3月の間はバーラットの家はけっこうなカオス状態だ。
話を戻す。
ひととおり挨拶が終わると、ダダとジャグネシュは僕に言う。
「お寺に行くからお前も来なさい」
誘うというより告げるというか、断りようもない感じ。
一家の若い衆に 言う感じ。年長者の指令はインドでは非常に重いものだ。
このとき時間は朝の10時過ぎ。
いやいや、昨夜成田を発ってから僕ほとんど寝てないんですよ、なんてことは言い出せる雰囲気では全くない。
「はい」と短く言ってダダの後ろから着いて行く。
(「神さまがくれた花2」につづく)