神さまがくれた花 5
5
なにか信者たちにしかわからない合図でもあるのだろうか。
なんとなく弛緩していた信者たちがものの数秒で姿勢を正すと、時を同じくして本堂の入り口から再びスワミ神が現れた。
車いすを押され、最初に出てきた出入り口とは逆の方向にゆっくりと向かい、そこに座る信者たちの前に止まった。
後ろに控えた弟子がスワミ神の耳元でなにごとかをゴニョゴニョとささやき、神さまも小さな声で答えている。
弟子は信者たちの中に座るひとりに話しかけ、その場で起立するように促した。
スワミ神は直接信者とは話さない。すべて弟子が間に入って会話している。
内容は僕にはわからない。信心深い特別な信者を神さまに紹介しているのだろうか。
起立した信者の顔は緊張と興奮で今にも歓喜に崩れそうだ。
会話が終わると、スワミ神は弟子の手に、僕の位置からは確認できないが、何かを持たせ、信者に手渡させた。
受け取った信者は感極まった表情で両手に包んだそれを額に押し付け、口づけをしてから大切そうに胸元に抱いた。
インド人が何か大切なものを受け取った時のしぐさだ。何をもらったのかここからは見えない。短い謁見は終わりを告げ、スワミ神はゆっくりとだがもう動き始めている。
さっきとは違う場所でまた止まった。
再び弟子が後ろからスワミ神に話しかけ、集団の中のひとりが起立し、誇らしさで頬を赤く染めたその信者は先ほどの信者と同様に、スワミ神からなにかを受け取った。受け取った信者は相当うれしそう。今にも地面に倒れそうだ。
そうしてこの謁見が終わると、また次のひとりへ。指名される信者たちは、今日この日に自分の番が来ることを知っているのだろうか。例えば何かしらの功績を教団にもたらした者たちが表彰される場なのだろうか?寄付活動とか?皆勤賞とか?なんかの修行を終わらせた者とか?
それとも完全にランダムな神の気まぐれ、退屈した神の遊びとして運にまかせて選ばれるのだろうか。あ、ちょっとあいつ気になるな話しかけてみよっか、ぐらいなノリなのか?
話しかけられる信者たちは、とてもうれしそうに誇らしげな表情で両目をキラキラさせていることは共通しているけれど、それが予定していたものなのかそれとも突発的なものなのかはよくわからなかった。
そんなことを考えているうちに3人目の謁見を終えたスワミ神一行。ゆっくりと僕らが座っている固まりの方に近づいてきて、近づいてきて、近づいてきて、、あれ? 僕の目の前で止まった。
あれ?弟子とスワミ神、やたらとこっちを見てないか?
あれ?ジャパニーズ、、なんて単語が聞こえてくるんですけど。
あれ?まさか2人して僕のこと話しているの?
(「神さまがくれた花6」につづく)