神さまがくれた花 8
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翌朝、少し遅めに起きるとダダとジャグネシュはリビングでくつろいでいた。
おはよう、ジェイアンベ、ジェイスワミナライとお互い声をかけると、「10時には出発するから準備しなさい」とダダ。もう100%連れて行くつもり。これはやはり逃げられないということか。
みんなで朝食を済ませ、身支度をしてから車に乗り込む。昨日と違うのはダダの奥さん通称バーと、親戚のおばちゃんラーマ、バーラットの奥さんプラティマの女性陣3人も一緒ということだ。
昨夜カロールのバーラット家に帰ってから、予期しないひと騒ぎがあった。
寺には一緒に行かなかったバーやラーマ、バーラットやプラティマに、寺で起こった出来事をダダとジャグネシュが興奮気味に報告したのだ。
「その花見せて!触らせて!」
そう言って本当に愛おしそうに、花を掌の上に置いて眺めるバーはもうすでに少し涙ぐんでいる。
僕のシャツの胸ポケットでしなびさせてしまったのが今さら申し訳ない。
ラーマやプラティマも花を額につけたり口づけしたり、その花自体に神のご加護があるような素振りだ。そこにいた誰もが感激をはばかる事なく表して
「これはすごいことだ、なんて幸運なんだ」と言い合っている。
あんたも額に花をつけて祈りなさい、そうおばちゃんたちに命令されーもうそれは完全に親戚世話好きおばちゃんたちの命令だったのだがーインド人がやるように花を持ち額につけ、口づけし、胸に当て目をつぶり神に祈る。
ひとしきりその場にいた全員が堪能したあとで、バーが僕に聞いてきた。
「これもらっていい?」
もちろん、と答えた次の瞬間に、バーは花から次々に花びらをむしり取り、ムシャムシャと野菜を食べるように咀嚼して呑み込んでしまった。身体の一部に同化したいほど大切なのだろう。
僕の方はこの状況にピンと来ていないのは相変わらずで、それでも大切な友人である彼らがここまで喜んでくれるものを持ち帰って来れたことは単純にうれしく感じる。
「お前すごいな!」と口々に言われるのは正直脇腹あたりがくすぐったいが、もちろん悪い気分はしない。
ただ彼らにとっても解けない謎として残ったのは、なぜ神さまは見知らぬ日本人に対してそのような破格の扱いをしたのだろうということだった。文字通り「神のみぞ知る」といった状態で、「不思議なこともあるものだ」と言いつつその日はみな眠りについたのであった。
そして翌日。
昨夜の話に触発されたに違いない、女性陣3人が鼻息も荒くスワミナライ寺に乗り込んだのであった。
(「神さまがくれた花9」につづく)