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天狼院書店 | 気になる「秘本」1

posted on 11月 22nd 2015 in with 0 Comments

天狼院書店が気になっている。

本が好きな人たちにはある程度おなじみの名前なのかもしれないが、正直言うと僕はつい最近、ひと月ほど前に知った。いつか行ってみたいと思いつつ延ばし延ばしになっていたので、池袋で友人と会う約束をした際に、ついでに寄ってみた。

天狼院書店は池袋にある本屋さんである。

本屋さんとしては小さな面積だろう。売り物である本は何でもかんでも置いてあるというわけでもない。ライフスタイルや思想系のものが目立つ。マンガもちょっとある。

一言で言うと本のセレクトショップという感じ。ここに20席ほどのカフェも併設されていて、食事もできるし仕事もできる。ちなみにこの文章の前半部分は天狼院書店の中でコーヒーを飲みながら書いた。

肝心の、僕が天狼院書店を覗いてみたかったわけ。

天狼院書店は面白い本の売り方をしている。一言で言うと「秘本」。

天狼院書店を訪れると、一番目立つ場所に真っ黒な本が平置きで置いてある。本を開いて中身を確認しようと思っても、本の表面を覆った真っ黒なカバーとビニールにより開けられないようになっている。タイトルを明かさないで本を売っているのだ。

これはつまり、本の目利きである店主さんが、これは!と思った本を出版社から大量買い、「天狼院秘本」として販売しているのだ。お客さんはタイトルも何もわからずに、そしてその売り方にむしろ興味をそそられて本を買っていく。

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四代目と五代目天狼院秘本

秘本を買うためには条件がある。

  • タイトル秘密です
  • 返品はできません
  • 他の人には中身を教えないでください

僕が天狼院書店を知ったきっかけもまさにこの「秘本」で、ある本を糸井重里さんが読みいたく感動し、天狼院書店が1000冊仕入れ、「糸井重里秘本」としてやはりタイトルを明かさず販売したという話をどこかで読んだのだ。

1000冊の単行本を一軒の町の本屋さんが買い取りするというのは、なかなか異様な話である。

ご存知のように、日本の本屋さんは非常に独特なシステムによって商売をしている。再販制度ってやつだ。これはおそらく日本にしかないものなのだろうが、簡単に言うと本屋さんは仕入れた本が売れなかった場合、それを出版社に返品できる、その代わりというわけでもないだろうが本の値段は出版社が決め、その定価以外で本屋さんは商品を販売することができない。

要するに本屋さんは「買い取り」で商品を仕入れるということのない商売なのだ。いったいどこの誰が考案したのか不思議な制度である。僕のような出版という世界のほんの隅っこに住んでいるような人間から見ても、現在の出版業界がこの制度の中でガチガチに硬くなっているのを感じることがある。本屋を開きたいと思っている若者が、出版社から直接仕入れようと思っても取次を通さないとダメと言われてしまうといった話を聞くこともたまにある。

なので、池袋の東通りという商店街にある小さな本屋さんが、ある本を出版社から1000冊仕入れて独自に販売するというのは、とてつもなく異様なニュアンスを含んだ話なのだ。

(つづく)

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石川拓也 写真家 2016年8月より高知県土佐町に在住。土佐町のウェブサイト「とさちょうものがたり」編集長。https://tosacho.com/

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