12月
23

神の歌の誕生日 バガヴァッド・ギーター

posted on 12月 23rd 2015 in インド with 3 Comments

バガヴァット・ギーター

 

今日は記念日です。

そう書かれたメッセージがインドから届いた。

 

* * *

 

Whats Appというアプリがある。

一言で言うと、海外で使われているLINEのようなアプリ。欧米圏ではかなり広く使われていて、インドでもWhats Appを使っている人が多い。僕のインドの友人たちもそう。

インドに通い始めていつの間にかWhats Appで連絡を取ることが多くなり、そしていつの間にか友人のラオ一族のグループに僕の名前も入っていた。

ラオ一家ではなくラオ一族である。けっこうな人数が参加している。

遠隔地にいる親戚も多い。グループ内ではかなり頻繁にメッセージの交換がなされている。

ヒンドゥ語と英語の会話が半々くらい。僕はほとんど見るだけに留まっているのだが、ときに気がつくと50件以上のメッセージが飛び交い、その半数がヒンドゥの神さまの写真の応酬だったりすることもある。

そこに今日届いたメッセージ。

 

「本日、バガヴァッド・ギーターの5151年の記念日です。」

 

知らない人にはさっぱりわからないと思うので説明すると、バガヴァッド・ギーターはヒンドゥ教の聖典のことである。

ヒンドゥの最重要聖典と言っても過言ではない。

ヒンドゥ教の聖典では、世界最長の叙事詩であるマハーバーラタがある。

数千年の間に書き続けられた10万節以上という膨大な長さの神話で、はっきり言って完読した人間などいるのだろうかと疑問に思うぐらいのものだ。

これはホメロスの「イーリヤッド」に比して7倍の長さらしい。と書きつつも正直に言うと僕は「イーリヤッド」がどんだけ長いのかよくわからない。

ただ「イーリヤッド」自体が非常に長い物語で、その7倍の「マハーバーラタ」は途方もないという感触が伝わればと思う。

そしてインドの賢人たちが長い年月をかけて繰り返し書き足し書き足してきたこのマハーバーラタの、最も根幹をなす重要ないち部分が「バガヴァッド・ギーター」である。

 

* * *

 

内容はといえば、古代のインドにおいて、ある一族の中で戦争が起こる。

簡単に言うと権力争いというか覇権の取り合いなのだが、この戦いに参加する戦士アルジュナという人物が主人公である。

アルジュナは戦いを前にして苦悩する。敵とはいえ相手は身内だ。どうして戦いに専念できるというのか。そもそも親族を向こうに回した戦争などするべきなのか。人としてどうなのよ。

そこへ、アルジュナの馬車を曳いている御者がアルジュナに諭すように話し始める。

実はこの御者は、ヒンドゥの神ヴィシュヌが化身してクリシュナという人間に身をやつし、この世に姿を現した者だった。

クリシュナは戦いに対する心構えを通して、アルジュナに人の道を説く。

人として何を為すべきか。人として何が大事なのか。勇気とはなにか。知性とはなにか。

その延々とした教えが、バガヴァッド・ギーターそのものだ。

たとえばこう。

あなたの職務は行為そのものにある。決してその結果にはない。行為の結果を動機としてはいけない。また無為に執着してはならぬ

 

そしてこのような世の道理を説いたり。

生まれたものに、死はかならず来る。
死せるものは、かならずまた生まれる。
さけられないことを、なげいてはいけない。

 

また時間というものがこの世の全てを滅していくという、日本風に言えば諸行無常をインド風にこのように表現してみせたり。

私は世界を滅亡させる強大なるカーラ(時間)である。諸世界を回収する(帰滅させる)ために、ここに活動を開始した。たといあなたがいないでも、敵軍にいるすべての戦士たちは生存しないであろう

もちろん日本の諸行無常がインドの影響を受けてできた概念なのは間違いない。

こうして、クリシュナ=ヴィシュヌはこの世の理をアルジュナの前に明らかにしていく。

 

* * *

 

ちなみにヴィシュヌ神は化身を繰り返し、この世に10回その姿を現わすと言われていて、クリシュナの姿で現れたこのときは8回目の化身。

あくまでヒンドゥの見方であるが、9回目の化身がブッダ。

そして10回目はまだ現れていないのだが、この世の秩序が全て失われた終末期にカルキという救世主となり、新しい時代を拓くと言われている。

インドの神さまのコスプレ体質

* * *

 

話を一番最初に戻すと、今日12月23日は、クリシュナがアルジュナに対してその教えを話した記念日なのだという。

そしてそのときから数えて今年で5151年目。

気の遠くなる話であるが、インドにいるとこういった話は決してマニアックなものではない。

ふつうに日常会話の中で、ふつうの人たちが話している。

古代がそのまま現代に息づいている。

 

これは日本にたとえて考えてみると、今日は神武天皇が即位した日です、なんていう話なのかもしれない。

日本だって世界最古のファミリー(皇族)が存在していて皇紀2675年なんていう数字だってあるわけだ。

だがしかし。

だがしかし、その数字を誰がどこで使っているというのだろうか。

 

そういう意味でインドでは古代と現在がひと続きなのだ。

戦士アルジュナの時代があって、そこから繋がった存在として僕の友人たちがいるという事実を実感させられる。

その継続性、神話の中の登場人物たちの一番先頭に自分たちが立っているという継続感を、インドの友人たちは毎日のように体感している節がある。

Whats Appで送られてきたこのメッセージのように。

そういう国なのだインドは。

 

参考:

バガヴァッド・ギーターの世界―ヒンドゥー教の救済 (ちくま学芸文庫)
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写真家 ニューヨークの街角に建つニューススタンドを1996年〜2004年まで撮影した写真集「Rao's Newsstand」を発表。ウェブサイトBus me too.Graphicsにて販売中。  

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    commented on 2016-03-12 at 16:30

    […] ヴィシュヌ神のアヴァターラ | インドの神さまのコスプレ体質http://ishikawatakuya.com/wordpress/most-popular/avataraついこの間こんなものを書いたのだが。神の歌の誕生日 バガヴァッド・ギーター* * *ヒンドゥ教の聖典「バガヴァッド・ギーター」において、御者のクリシュナとして姿を現わす存在は、実はヒンドゥの神ヴィシュヌだった。ヴィシュヌはヒンドゥ教神話の最高神で… ISHI LOG  「人の話」ではなく「神の話」。インドの友人から届いたメールに触発され「神の歌の誕生日 バガヴァッド・ギーター」 を書き、その勢いで更に書いたインドで大人気のヴィシュヌ神の話。ヒンドゥ教のへんてこさを愛してやみません。 […]

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