ヴィシュヌ神のアヴァターラ | インドの神さまのコスプレ体質 その3
「ヴィシュヌ神のアヴァターラ | インドの神さまのコスプレ体質 その2」の続きです。
7, ラーマ
真打登場。
7番目のラーマは次のクリシュナと1、2を争う大人気キャラである。
ラーマは王子さま。
インドでは、この人と伴侶のシーター姫、弟ラクシュマナの3人の冒険物語が「ラーマーヤナ」という長大な神話となっている。
内容をここで全て紹介するのはとうてい無理だが、王子さまとして生まれたラーマ(とラクシュマナ)が、継母であるカイケーイー妃によって国から追放されたり、魔王にさらわれたシーターを取り戻しに悪魔の国に乗り込んだり、猿の神様ハヌマーンがラーマの忠実な家来になって大暴れしたり、そんな物語である。なんのこっちゃ。
興味がある人はこちらを読んでみるといいかもしれない。
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ここからは余談。
インドではラーマーヤナは現在でも大人気の一大古典であり、そのクロスメディアぶりも凄まじい。
テレビをつければ毎日のように「ドラマ・実写版ラーマーヤナ」を放送しているし、80年代に制作されたと思しきアニメシリーズも、いまだにDVDがお店で売られている。ちなみにこのアニメを制作したのは日本の会社なんだという。
猿の神ハヌマーンも大人気で、インド人の車にはかなりの確率で、往年のキン消しのようなゴム製の空飛ぶハヌマーンがバックミラーからぶら下げられている。
いなか道などで猿を見つけたらすかさず「ハヌマーンジ!」と叫ぶとインド人には100%ウケる。「ハヌマーンジ」は「ハヌマーンさま」ぐらいの意味。
さらに余談を続けると、シータをさらったのはラーヴァナという魔王で、その王国は現在のスリランカであるということになっている。
ヒンドゥ教によって勝手に悪魔の島に認定されたスリランカも迷惑以外のなにものでもないだろうが、これはヒンドゥが北インドから南インドへ浸透していったのが理由なんだという。
南へ南へと異教徒をヒンドゥ化していった結果、残った未知の領域がスリランカだったということらしい。
もうひとつだけ付け加えると、実際のインド人は「ラーマーヤナ」と言わずに「ラマヤン」と短めに発音する。「ラマヤン」「ラマヤン」と聞いているうちに、大阪のおっさんのあだ名を聞いているような気分になるのだが、その微妙な気分をインド人に説明しようと試みたことはまだ一度もない。これからもないと思う。
* * *
8, クリシュナ
ラーマと人気を二分するのがこのクリシュナ。
ヒンドゥ教の聖典中の聖典である「バガヴァッド・ギーター」のことは先日書いた通りだが、膨大なクリシュナ伝説の中でそれはほんの一部に過ぎない。
インドの街角のあちこちには必ず神さまポスターが貼られていて、もちろんそういったポスターを売る店も非常に多い。そしてそういった類のお店で最も目を引くところに置かれているのが、必ずと言っていいほどクリシュナである。
クリシュナポスターは、もちろん「バガヴァッド・ギーター」の一場面である戦士アルジュナに教え諭す図柄もあるが、赤ん坊バージョン、少年バージョン、青年バージョン、牛に囲まれるバージョン、女性に囲まれるバージョンと本当にバラエティ豊かで、そう考えるとさっきのラーマよりもクリシュナの方が一番人気なのかもしれない。
ちなみにラーマの赤ん坊バージョンの絵はあまり見たことがなく、多いのはシータとラクシュマナの3ショット。あとはハヌマーンがラーマに跪いている絵とか。
クリシュナはインド神話随一のモテ男で、16000人の妻がいたなんて話もあったり、牛飼いの女性ラーダーとの恋話がインド人みんな好きだったり、ちょっと艶っぽくて老若男女から人気を集めている。
西洋人はクリシュナ(KRISHNA)とキリスト(CHRIST)との名前の類似を指摘する人もいて、インドからイスラエルに伝説が流れていったという説もあるというが、真偽のほどは定かではない。だとしたら面白いが確かめようもないんだろう。
クリシュナという名はサンスクリットで「黒」を意味するという。またクリシュナはダーサという別名も持っていて、これは「奴隷」という意味だそうだ。
これはクリシュナが元々は南インドの被征服地の土着の神だったからで、それが理由で昔のクリシュナの絵はどれも肌が黒く描かれているという。
黒い肌を持つ南インドの民の神さまだったクリシュナをヒンドゥ教が吸収したということだ。
ついでに言うと、上にあげた図はクリシュナの絵としてはとても珍しい、黒をちゃんと黒く塗ったものである。
相当古い時代のものはこうして黒いクリシュナなわけだが、実は現代のポスターなどで、このようにちゃんと黒く描かれたクリシュナは皆無なのだ。
なぜだか常々不思議なのだが、昨今のクリシュナポスターのクリシュナは下の図のように100%青く塗られている。
この青い肌をインド人は「青黒い肌」と言うのだが、僕からすると単に「青い」ようにしか見えない。
この「青い肌」を「青黒い」または「黒い」と認識するのは相当無理があるのではないかと思っているのだがどうだろう。
ヒンドゥ教の中での2大「青い肌」がこのクリシュナとシヴァで、この2人、ときには紫がかった青に塗られていることも多い。
これは長年の僕の疑問なんである。
インド人には青と黒の区別があまりないのだろうか。
インド人と話ししていると、彼らの言語には「サ」と「シャ」の区別が存在しないことに気がつく。
例えば「ガネーサ」も「ガネーシャ」も一緒なのだ。日本人が「L」と「R」の区別がつかないように。
そんなことを知ると、青と黒の区別ももしかしたら、と思ってはいるのだが、その謎はまだ僕の中で解けていない。
ちなみにシヴァの肌が青いのは理由がある。
破壊神であるシヴァは同時に死を司る神である。火葬場を寝ぐらにしていて、その灰を体に塗るために青く(黒く?)なるのだそうだ。
灰を塗ったら黒くなるはずだし、シヴァはマハー・カーラ(大いなる黒)とも呼ばれていることも考えると、やはりインド人の青黒不分別論は現実味のある話なのだと僕は勝手に思っている。シヴァは中国経由で日本に輸入されて大黒天になっているし。
話を戻すと、上の黒いクリシュナの方が土着っぽくて僕は好きなので先に掲げたが、インドの一般的なクリシュナの絵は以下のような青い肌のものである。
ついでなのでシヴァの青さはというと、こんな感じ。
インド人DNAの色認識の不可解さを、僕はこの青いクリシュナ(とシヴァ)に感じてしかたない。
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ヴィシュヌ神のアヴァターラ | インドの神さまのコスプレ体質 その4
commented on 2016-01-26 at 13:42
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