ヴィシュヌ神のアヴァターラ | インドの神さまのコスプレ体質 その2
「ヴィシュヌ神のアヴァターラ | インドの神さまのコスプレ体質 その1」の続きです。
4, ナラシンハ (Narasimha)
ナラシンハは頭がライオン、体が人間の獣人である。
このときの敵役はヒラニヤカシプというアスラ族で、さっき出てきたヒラニヤークシャの弟だ。
あるとき、ヒラニヤカシプはとても激しい苦行を行って最高神ブラフマーに認められた。
ご褒美になんでも一つだけ願いを叶えてくれるというブラフマーに対して、ヒラニヤカシプは「神にもアスラにも、人と獣にも、昼と夜にも、家の中と外にも、地上でも空中でも、そしてどんな武器にも殺されない体」を願った。つまり無敵の体だ。
こうして無敵の体を手に入れたヒラニヤカシプは神の世界で暴れまわる。神々はそんなヒラニヤカシプを退治しようと考えるが、ブラフマーが与えたその体のためにヒラニヤカシプを殺すことができなかった。
そんなとき、ヴィシュヌはヒラニヤカシプの息子にある命令をする。ヒラニヤカシプの息子は熱心なヴィシュヌの信奉者だったのだ。
その命令とは、「夕暮れ時に、玄関にヒラニヤカシプを連れてくるように」というものだった。つまり昼でもなく夜でもない時に、家の中でも外でもない場所へ連れてくること。
息子はその通りヒラニヤカシプを連れ出すと、玄関の柱のひとつからナラシンハが飛び出し、膝の上にヒラニヤカシプを載せ、素手で引き裂いて殺した。
これはヒラニヤカシプの体は人にも獣にも殺せないため、その中間である獣人となって、そして地上でも空中でもない彼の膝の上で、武器を使わずに殺したのだという。
一休さんのとんち話を血なまぐさくしたような話だ。
「この橋渡るべからず」と立て札にあるので橋の真ん中を歩きました、という話と基本的な構造は変わらない。(と僕は思う)
話が似ているというよりはインドの方がはるかに古いのは確実なので、こちらが「元祖」というか。関係ないと思うけど。
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5, ヴァーマナ (Vāmana)
5番目のヴァーマナは「矮人」と言われている。つまり小人である。
ある時バリという悪魔がこの世界を占領した。ヴィシュヌはバラモンの少年となりバリの前に現れ、「3歩歩いただけの土地を欲しい」と要求した。
バリがその要求を認めた途端、ヴァーナマは巨大化し、最初の一歩で大地をまたぎ、二歩目で天界を踏み、地底世界はバリのために残しておいた。
だがバリが最初の約束を履行しようとしなかったので、ヴァーナマは3歩目でバリの頭を踏み、地底世界に押し付けてしまったという。
それ以来、バリは地底世界に棲んでいると言われている。
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6, パラシュラーマ (Parashrama)
6番目はパラシュラーマという斧を持った男。
この人に関しては、「非常に強かった」という話がメインで、これまでの5つのアヴァターラのような派手な逸話がほとんどない。地味である。
したがってあまり人気もないように僕には思える。
この人は長年シヴァ神に師事し、苦行のように格闘技を習得したという。パラシュラーマの頑張りをシヴァ神は喜んで、ご褒美にその斧を与えたのだという。
ヴィシュヌ神の生まれ変わり(アヴァターラ)なはずなのにシヴァ神の弟子なわけである。この話ひとつでなんとなく地味だ。
良い人なんだろうしナラシンハみたいに凶暴でもないのだが地味だ。
猪ヴァラーハみたいに地球スケールのことやらないし、小人ヴァーナマみたいに巨大化もしないので、ここまでに登場した猛者たちと比べてしまうとやはり地味である。
もうひとつパラシュラーマの話で不思議なのは、「彼はのちの世で再生し、カルキの格闘技の師匠となる」といった話だが、後述するようにカルキというのはヴィシュヌの10番目のアヴァターラで、その場合ヴィシュヌの生まれ変わりがヴィシュヌの生まれ変わりに格闘技を教えるという矛盾が生じてしまう。
この辺り、ヒンドゥ教がいい加減というかなんでもありというか、よく言えば懐が深いという印象に繋がっていくんだろうと思っている。
パラシュラーマは「その存在に大きな矛盾を抱えた地味な人」と言えるだろう。そう言っていいのかどうかは別問題だが。
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