昨日までの家
ウガーっと叫びたくなること5回。
もういいや、と全てを放擲寸前になること8回。
南国のビーチでのんびりする自分を白昼夢に見ること14回。
知恵熱2回。
その度に、自業自得だからと諦め、自分を奮い立たせること29度。
なんとかやっと、引っ越しが終わりました。
* * *
人生で最大級の断捨離を決行した結果、元の家の庭先にはあらゆる種類のゴミがうずたかく山盛りになりました。
8年という歳月の、整理してこなかったツケがここにきて一気にまわってきたのは間違いなく、それは必要なものよりも不必要なものに多く囲まれた生活をしていたことが一目瞭然となる光景でした。
大きい収納があるっていうのは実はけっこう怖いことだったりします。
昨日は最後の作業。
大家さん立ち合いの下、家の内部の最終確認でした。
大家さんはおじいちゃんと30代の息子さん二人でやってきて、懐かしそうに家を隅々まで見回ったあと、
「長いあいだ住んでいただいてありがとうございました」
と二人揃って深々とお辞儀をしてくれました。
もしかしたら家の使い方についてガミガミと小言を言われるかもしれない、と密かに緊張していた僕はその瞬間、肩の力がふっと抜けて、心臓をギュっとつかまれたような気分になりました。
この大家さんで良かった。
全てを終えて帰り際、向かいの家のオヤジが表に出てきてひと言、
「もう会うこともねえやな」
おいおい、あんたは下町のガンコオヤジでしょう、そんなに目を潤ませてこっちを見るのはやめてくれ。
「いなくなってせいせいするわ」とか、そんなこと言うはずのオヤジでしょう。
うーん、まいった。
笑顔で感情を隠し、オヤジにも8年住んだ家にも深い深い一礼をして、出発。