4月
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ラサに行ってもいいですか? | 偽装中国人バスの旅 17

posted on 4月 10th 2014 in 1995 with 14 Comments

17

頭が痛い。

バスが山を登るほどこめかみの鈍痛がひどくなる。

もうこの旅も3日目だ。

ここがどの辺りなのか見当もつかない。ラサまであとどれくらいなのか、誰にも訊けない。もうすぐ到着するのかもしれない。まだまだ着かないのかもしれない。

あれから検問がさらに2つあった。ひとつは公安が車内をジロジロ眺めるだけで終わったが、もうひとつは2人の乗客がその場に降ろされた。

僕にはその理由がまったくわからなかった。そのことを誰かに訊ねることもできなかった。そしてその情報の無さが僕の不安を徐々に大きいものにしていた。こめかみの鈍痛は単に高度のせいだけでもなさそうだった。

バスはひたすら山を登り続けている。さっきから下り坂をまったく見ない。空気が薄い。少し息苦しい。

なんとかなるさ、といった根拠のない楽観主義はいつしか僕の中から消え去っていた。次は僕の番かもしれない。次の検問で目を付けられてバスを降ろされるのは僕かもしれない。いや、僕ひとり降ろされるならまだましだ。許されない外国人がこのバスに潜り込んでいることが原因で、バス全体がゴルムドにとんぼ返りを強要されたとしたら。すでに60時間以上の長旅に、黙然と耐えている他の乗客たちが、そうなったとき果たして僕のことを笑顔で許してくれるのだろうか。そんな想像はいつしか僕の心の中で発芽して、不安という腐臭を放つ花を咲かせてしまったようだった。

 

置かれた状況を考えれば考えるほど、無事では済まないような気になってくる。答えの出ない無限ループにはまり込む。しかし体が疲れすぎていて、思考が半ば麻痺していたのはむしろ幸いだったかもしれない。

ひとつの考えに集中できないほど麻痺していたおかげで、悲観的な不安の中心に沈み込まずに済んだのだから。

(つづく)

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石川拓也 写真家 2016年8月より高知県土佐町に在住。土佐町のウェブサイト「とさちょうものがたり」編集長。https://tosacho.com/

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