4月
11

ラサに行ってもいいですか? | 偽装中国人バスの旅 18

posted on 4月 11th 2014 in 1995 with 19 Comments

 

18

酸素不足と頭痛と睡眠不足と空腹で、もう頭はぼんやりとして用をなさない。

硬い座席にぐったりと沈んで、疲労と睡眠の間を行ったり来たりしているうちに3日目の夕陽が沈んで行った。バスはいまだに街に入る気配もない。

もう本当にうんざりだ。

どことも知れない今すぐここで、このバスを降りてしまいたい衝動に駆られながら、ウトウトと眠くなる。だからといってぐっすりと眠れるわけでもない。ちょっとしたバスの揺れで意識はこちら側に戻ってきてしまう。

 

ラサ到着まで残りどのくらいの距離なのか、せめてそれだけでも知ることができたなら。

手も足も出ないこの状況に、ただ丸くなって耐えなければならないのはあと何時間なのか、せめてそれだけでも誰かに質問できたなら。

この暗闇をあてどなく歩き続けているような心細さを、少しは小さくできたはずなのに。

 

もちろん僕にはそのどちらもできなかった。そんなことをすればネズミ男のルールを破ることになってしまう。ルールを破ったらラサには到着できないのだ。せっかくここまで我慢したゲームもすべて終了。そのうえゴルムドまでの数十時間を再び耐えなければならなくなるだろう。

 

どちらにせよ、あらゆる意味で限界が近いことは僕自身よくわかっていた。

(つづく)

Share on FacebookTweet about this on TwitterShare on Google+Share on TumblrPin on Pinterest

石川拓也 写真家 2016年8月より高知県土佐町に在住。土佐町のウェブサイト「とさちょうものがたり」編集長。https://tosacho.com/

Loading Facebook Comments ...

currently there's 19 comment(s)

コメントはここから