エリトリアで借金を 5
(エリトリアで借金を 4 つづき)
バスで出会った彼らのおかげで、アスマラまでの旅はとても楽しいものになった。
アスマラでの2、3日はハジスの家に居候させてもらうことになる。ハジスは僕の置かれた状況がよく理解できないらしく、なんでそんなに急ぐんだ、もっとゆっくりしていけよ、と何度もちょっときつめの口調で言ってくれた。
ハジスの家族に囲まれた生活はとても楽しく居心地良く、僕もつい財布のことを忘れてしまいがちになるのだが、この時点で中身は100ドル弱になっていて、それが僕の気持ちを焦らせた。
後ろ髪を引かれるというのはこういうことかと思いつつ、ハジスと家族に別れを告げて、港町のマサオアに出発した。アスマラでも船のことは聞いて回ったが、やはりというか、驚くべきことに、と言うべきか、詳しい情報はさっぱり出て来ない。マサオアに向かうバスの中でもそれは同じで、お金がどうこうという以前に、エジプト行きの船なんて初めからないのかもしれない、という不安が強くなる。
ナイロビからアスマラまでの道のりは、とても高度の高い場所を走って来たようで、照りつける日差しは強いが暑くも寒くもないような天候だった。それに対してこの道は、一気に山を駆け下りるような下り坂で、港町に近づくにつれ、どんどん気温も湿気も急上昇、アフリカらしいといえばアフリカらしい。今まで暑さに慣らしていない分、体中からいっきに汗が出始める。
話はやっとここで冒頭に戻ってくる。
このうえなく切り詰めた生活をしていた僕は、バスが食事のために停まっても、アスマラの市場で買ったオレンジぐらいしか食べるものがない。炭水化物が恋しくなるが、背に腹は代えられない。一回の食事で船のチケットが買えなくなることだってあるかもしれないのだ。
バスで乗り合わせた人々は、そんな僕に、こっちへ来いよ、と自分たちの席に誘ってくれた。これがエリトリアの食い物だ、一緒に食え、と出されたものはインジェラという名の料理だった。
一見すると、巨大なクレープの生地のような黄色い物体に、野菜や肉を煮込んだシチューを包んで食べている。遠慮なく試しにひとくち食べてみると、食べたことがないような酸っぱさで、失礼な話だが、これ腐ってないか?と言いそうになった。
その質問を最初のひとくちといっしょに飲み込んで、周りのひとを見てみると、当たり前だが文句を言い出す人もなく、みなうまそうに食べている。こういうものか、と思い直してもうひとくち、さらにもうひとくちと食べてみると、最初は驚かされた味が、だんだんとクセになるようで、美味しいものに感じられてくる。独特なその酸っぱさは、生地を発酵させているかららしいのだ。
エリトリアの人々はこのインジェラが自慢のようで、どうだ、うまいだろ?と入れ替わり立ち替わり僕に訊いてくる。その度に、うん、うまいと口をモグモグさせながら答えると、それだけでみな嬉しそうにしてくれる。
そんな食事を何度か挟みながら、バスは一路マサオアに向かって行く。否応のない勝負のときに、時速60キロで近づいて行く。
(6につづく)