神さまがくれた花 7
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この日の謁見はこれで終わりのようで、最初に出てきた入り口から神さまは住居に戻って 行った。
神さまの姿が見えなくなると、整然と座っていた群衆たちは思い思いの方向に散り散りになって行った。僕の掌の中には小さな赤い花がひとつ残された。ダダとジャグネシュと、他6,7人が僕の周りに駆け寄ってきた。
「すごいじゃないか!スワミ神から話しかけられるなんて!」
「お前はわかっていないかもしれないが、これは本当に特別な事だぞ!」
みな口々に、スワミ神からのご厚意が尋常でない幸運によるものだと僕にわからせようと熱弁した。信者ではない僕が、特に興奮も見せずにボーっとしていたので歯がゆさを感じていたようだ。ジャグネシュなんかに至っては、おれは30年以上毎年来ているのに神さまに話しかけられた事もない、と少し恨めしそうな目で言う始末だった。
僕は僕で、なんとなくとてもラッキーなことがあったんだ、さっきのことはとても珍しいことだったんだと、そういうことは説明されて頭ではわかった気になったものの、やはり信者でもなく自分自身の神さまとしてスワミ神を思慕するわけでもなく、頭の理解に気持ちが着いて行かないような、不思議な感覚の中にいた。
インドに通うようになってからしばしば思っていた事だけれど、宗教というものはやはり心で「信じる」ものであって、または身体で「行為する」ものであって、決して頭で「理解する」ものではないのだろうと実感した。
「よし、決めた」ジャグネシュが笑顔で言う。
「お前はこれから毎日この寺に来なさい。私たちが連れてくるから、毎日スワミ神に会いなさい。インドにいる間は毎日一緒に来なさい。」
えっ?今回のインド滞在は2週間。その毎日をこの寺で?ウソでしょ?
正直なところそれはムリ、他にも行きたいところもあるししたいこともある。そうは思いつつも、信仰に裏打ちされたジャグネシュのキラキラした笑顔の勢いに押され、ノーと強く言えない日本人の僕がいる。ノーと言えないのは僕が無宗教だからなのだとこのとき初めて知った。
時間はもう夕方。この参拝に来ただけでほとんど一日が終わってしまう。
(「神さまがくれた花8」につづく)