ヴィシュヌ神のアヴァターラ | インドの神さまのコスプレ体質 その1
ついこの間こんなものを書いたのだが。
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ヒンドゥ教の聖典「バガヴァッド・ギーター」において、御者のクリシュナとして姿を現わす存在は、実はヒンドゥの神ヴィシュヌだった。
ヴィシュヌはヒンドゥ教神話の最高神である。
ヒンドゥの創世記には3人の最高神が登場する。ヴィシュヌ・ブラフマー・シヴァ。
ブラフマーはこの世界を作り出した創造神なのだが、ブラフマー自身がヴィシュヌのヘソから生えた蓮の花から生まれたとされている。
ひとつ注意してもらいたいのはもしこの段階で、どうしてヘソから神さまが生まれるんだ、ヘソから生まれるのはゴマだけだ、とか思った人の頭の中はこのあとヒンドゥの混沌に叩き込まれることだろう。ヒンドゥ神話のようにぶっ飛んだものに触れる際には、「へえそうなんだ」ぐらいで半ばスルーするのが正しい態度と言える。
話を戻すと、つまりヴィシュヌは創造神を産んだ神とされているのである。最高神の中の最高神と言っても良い存在だ。
このヴィシュヌ神というのは神なので肉体を持たない(不老不死)のだが、まれに肉体を持ち人の世に現れると言われている。
いわゆる「化身」という現象である。
この「化身」、インドではアヴァターラと言う。
もともとはサンスクリット語らしい。のちに英語に輸入され「アバター(Avatar)」という語の語源となった。ということは映画「アバター」もこれが大元ということだ。
このヴィシュヌ神のアヴァターラ、主なもので10あって、それぞれちょっとおもしろい。神さまのコスプレってことですね。
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勉強がてら順に紹介してみると、
1, マツヤ (Matsya)
最初のアヴァターラはマツヤという名の魚である。
ヒンドゥ神話には旧約聖書のノアの方舟とそっくりな話があって、ノアにあたる人物がマヌである。
マツヤは金色の角の生えた魚で、マヌに対して大洪水の到来を予言する。その上で船を用意すること、7人の賢人と全ての種子を載せることをマヌに指示して魚は姿を消したとされる。
そのおかげでマヌは大洪水を生き抜き、人類の祖となったと言われている。
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2, クールマ (Kurma)
2番目のアヴァターラはクールマという大亀である。
ヒンドゥ神話には「乳海攪拌(にゅうかいかくはん)」という一大イベントがある。
この世が生まれたとされる天地創造の物語だ。
この辺りでヒンドゥ神話のハチャメチャぶりが全開となる。
話は長いのでここには書かないが、下の画像のような出来事である。
大蛇の端と端を、ヒンドゥの神々(と阿修羅)たちが持ち、それを大マンダラ山に巻きつけ、両方から引っ張り合い海をかき混ぜるわけである。
その大マンダラ山は大亀クールマの背に載せられたと明記されている。下の図だとなんか貧弱なただの亀にしか見えないが、実際は大活躍したということだ。
さすがに神々たちがフルパワーで回し続けたので、海はみるみる乳のように濁っていった。
だから「乳海攪拌」なのである。
この回す作業は千年続いたという。そのうちにそこからどんどん新しい神さまや白い象や願いを叶える樹なんてものが海から生まれ、この世の元となったという。
ヒンドゥ神話では、この手の「千年続いた」といったようなことが頻繁に起こる。聞いててちょっと疲れる。
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3, ヴァラーハ(Varāha)
ヴァラーハというのはイノシシだ。
この図の中でイノシシに踏まれているヒゲのおっさんはヒラニヤークシャという読みにくい名前のアスラ(阿修羅)。
ここまで情けない表情のおっさんはなかなか珍しいんじゃないかと僕は思う。
これは画家が上手いのか。それともヒラニヤークシャが情けないのか。
ある時、このヒラニヤークシャが大地を海に沈めてしまったらしい。後で懲らしめられるのがわかっているくせに、アスラはよくこういう悪事を行う。
それでヒラニヤークシャを懲らしめるためにヴァラーハが遣わされ、海に沈んだ大地をその牙の間に収め、持ち上げながら戦ったのだという。それでこの図はイノシシの顔の上に地面が乗っかっているような不思議な絵になっている。
その他にもヴァラーハの絵は、牙の間に丸い地球が載っているといったものが多く、スケール感は10のアヴァターラの中で最も大きい。
ヒラニヤークシャとの戦いは千年の間続き、千年目にヴァラーハが勝利した瞬間が上の図だ。
また出た。この千年というおおざっぱな長さもヒンドゥ教らしい。
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ヴィシュヌ神のアヴァターラ | インドの神さまのコスプレ体質 その4
commented on 2016-01-26 at 13:38
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