神さまがくれた花 8
8
翌朝、少し遅めに起きるとダダとジャグネシュはリビングでくつろいでいた。
おはよう、ジェイアンベ、ジェイスワミナライとお互い声をかけると、「10時には出発するから準備しなさい」とダダ。もう100%連れて行くつもり。これはやはり逃げられないということか。
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翌朝、少し遅めに起きるとダダとジャグネシュはリビングでくつろいでいた。
おはよう、ジェイアンベ、ジェイスワミナライとお互い声をかけると、「10時には出発するから準備しなさい」とダダ。もう100%連れて行くつもり。これはやはり逃げられないということか。
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7
この日の謁見はこれで終わりのようで、最初に出てきた入り口から神さまは住居に戻って 行った。
神さまの姿が見えなくなると、整然と座っていた群衆たちは思い思いの方向に散り散りになって行った。僕の掌の中には小さな赤い花がひとつ残された。ダダとジャグネシュと、他6,7人が僕の周りに駆け寄ってきた。
「すごいじゃないか!スワミ神から話しかけられるなんて!」
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6
僕を見ながら弟子がボソボソとささやく。それを聞いたスワミ神はフンフンと微笑みながら頷いて、弟子の耳にそっとひと言語りかけた。
それを聞いた弟子、僕の方に向き直り、厳かに威容を整え、
「神さまは日本からはるばるあなたが来られたことに大変お喜びである」
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5
なにか信者たちにしかわからない合図でもあるのだろうか。
なんとなく弛緩していた信者たちがものの数秒で姿勢を正すと、時を同じくして本堂の入り口から再びスワミ神が現れた。
車いすを押され、最初に出てきた出入り口とは逆の方向にゆっくりと向かい、そこに座る信者たちの前に止まった。
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4
法悦?恍惚?
この歓喜。なんとなく心の隅でうらやましい想いもありながら、彼らの心情の根本は想像するしかない。
ヒンドゥ教徒でもないし、特にこれといって特定の宗教を持たずに大人になった僕としては、スワミ神を前にしたときの彼らの目の輝きはとても眩しいのと同時になかなか理解のしづらい種類のものだ。
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3
スワミナライの寺はアーメダバードの市内にあって、驚くほど空港に近かった。
門を入るとすぐ履物を預けるようになっていて、裸足にひんやりとした大理石が心地良い。一歩境内に入ると空気が変わる。外のホコリっぽい混沌とは全く別の時間がそこには流れている。
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本文を読む2
車に乗り込み、さっきバーラットと一緒に来た道をそのまま戻る。
寺はアーメダバードの街中にあるらしい。
「その寺はなにか特別なんですか?」そう尋ねた僕にダダが道すがら説明してくれた。
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本文を読む1
この広い世の中には、まれに「神さま」と呼ばれるものがいるらしい。
空の上にとか心の中にとかそういうあいまいな話ではない。出会える神さま。生き神。リビング・ゴッド。これはそういう生身の「神さま」に僕が出会った話。
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本文を読むこの話は以下のリンクにまとめています
ラサに行ってもいいですか? | 偽装中国人バスの旅 [前編]
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24
きっと公安はそんな返事を予想していなかったはず。目の前の、自分を無視し続けた旅人がやっと発したひと言を理解するのにいささか手間取っているように、数秒そこだけ時間が止まったように固まった。
しばらくすると崩れかけた体勢を立て直し、公安がまた何かを言った。僕にはまたそれも理解できなかったのだが、声の調子から怒りのトーンが少しだけ落ち着いたことが聞き取れた。
さっきの続きのつもりはないのだが、本当に何を言っているのかわからないので首を傾げていると、公安は同じ言葉を何度か繰り返した。それでも僕が理解しない様子に業を煮やしたのか、背後に立った3人のうちのひとりが、「パスポート!!」と短く叫んだ。
そうか、そりゃそうだ。さっきから乗客の身分証を確認していたのだから。
シャツの内側に手を突っ込んで、そこからパスポートを取り出し、公安に渡す。珍しいものを見つけたようにそろそろと端をつまみ、公安はパスポートを点検しはじめた。後ろの3人も肩の上から覗き込む。
乗客たちと運転手はさっきからまったく声を出さない。静寂の中、公安がパスポートのページをめくる音だけが聞こえていた。
このとき僕のパスポートはほとんど白紙のはずだった。上海から旅を始めたのだから当然なのだが、どこにそんなに見るものがあるのだろうと僕が不思議に思うほど、公安たちはパスポートを仔細に点検していた。白紙のページもしげしげと丁寧にめくりながら見ているのだ。
もう僕はバスを降りるつもりだった。他の乗客に迷惑をかけないで、僕だけ降ろされるならそれでしかたない。そうこのときは思っていた。降りるために、お茶の瓶やら中国語の雑誌やら、持ち物をまとめておいたほうが良いのだろうか。そんな風に思っていた僕の目の前に、点検し終わったパスポートがグイっと差し出された。
(つづく)本文を読む